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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

――なにか悪い事でもするような人だったら。

おむらの云った言葉が思いだされて、覚悟をきめて来たものの、おけいはだんだん不安になるのを抑えることができなかった。

二町ほどいって右へ坂を下りた。小さな谷間といったふうな、二つの丘に囲まれたところに、その家はあった。南西へひらけた千坪ばかりの広さで、周囲に高い生垣をまわし、表側だけは黒く塗った板塀で、あまり大きくはないが両開きの門が付いていた。

「あの川はなんというか知っているかね」

門のところで和助がそう云った。土地はそこから西へ段さがりになって、松林の向うに草原がひろがり、そこにゆるやかな川の流れているのが見えた。

「あれが玉川だ、名ぐらいは知っているだろう」

「ええ、聞いたことはあるようですけれど」

「これから鮎が獲れるんだが、ここのは味がいいので名高いんだ」

川魚は嫌いですと云おうとしたが、おけいはさりげなく頷くだけにした。

門をはいると老人夫婦が出迎えた。名は吾平にとみというのだが、爺や婆やと呼べばいいそうである。かれらはまえから聞いていたのだろう、おけいのことを御新造さんと呼び、とみが先に立って家へ案内した。