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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

「――あたしはもう心配じゃなくなったわ」

おけいは玉川の流れを見やりながら、感動をひそめた自信のある声で云った。

「――あの人はもう来ない、決して来ないという気がするの、決して、……どうしてだといわれてもわからない、自分でもこれがこうとは云えないけれど、でもあの人が二度と来ないということは慥かだと思うわ」

「そうなればますます夢だ、しかしそんな大きな夢でなくってもいい、此処へ地面を借りて、おけいちゃんの側で暮すことができれば、おれはそれだけでも充分だ」

「――ねえ、泣いてもよくって、宇之さん」

宇之吉の言葉には構わず、おけいはこう云って、彼の眼を見あげながらすり寄った。

「泣くって、だって、急にどうしたんだ」

「――いつか大島町の河岸で云ったじゃないの、こんど二人が一緒になれたときは泣けるだけお泣きって」

「それあ、けれどもそいつは、二人が晴れて……夫婦になれたときっていう」

「ゆうべね」おけいはそっと宇之吉の胸に凭れかかって、あまく囁くように云った、「――ゆうべ、あたし聞いちゃったの、爺やと婆やが、……十月になったらあたしたちを一緒にさせようって、……宇之さん」