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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
けれども汝生はそれを聞きながして続けた。
「兵庫兄さまには当然のことでしょう、でもあのひとにはできませんでした、ようやく歩き始めたばかりの子を置いて、自分の罪を名乗って出ることは、あのひとにはできなかったのです、そして、わたくしもそうなさるようにとは云えませんでした」
「汝生は動木と会っていたのか」
「塾を早退けして、家事をみてあげに毎日いっておりました、だってそうしなければ、男手に子を抱えて、あのひとはどうすることができたでしょう」
「出奔のことも知っていたんだな」
「あのひとは切腹しようとしたのです、危ないときにゆき合せて、止めました、そして、わたくしたち三人で、新しい生活を始めましょうって、泣いて頼んだのです」
喜兵衛はそうする気力もないほど、まいっていた。しかしついには決心し、ひとまず福井へ身を隠した。それは四月のことで、汝生は溜めていた小遣や、物を売った金を持たせてやった。そして九月の紅梅会の旅に、うちあわせていっしょになり、参覲の道筋では家中の人の眼につくので、遠く近江路をまわって東海道へ来た。
「住みついてから三年、次郎という二男も生れました、貧しゅうはございますけれど、親子四人たのしく暮しております、……動木喜兵衛も汝生も、もうこの世にはいません、どうぞわたくしたちをそっとしておいて下さいまし、此処