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あめのやまぶき

雨の山吹

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页

青空文庫

七

にいて悪ければもっと遠い処へまいります、決して御家中の方の眼につかない処へ、……お願いでございます、ちい兄さま」

汝生は両手をつき頭を垂れた。そして激しく泣きだした。

七

「今ここでは返辞ができない」

暫くして又三郎が云った。

「兄は二人に自決させるか、さもなければ斬れと云った……、私もこう思う、おまえが喜兵衛を庇う気持はわかるが、喜兵衛はそれを受けてはならぬ筈だ、汝生をこんなみじめな姿にし、これからも、いつ終るかわからない苦労を、汝生に負わせる権利は彼にはない筈だ、それだけは私にもゆるせない」

「やっぱりわかっては頂けませんのね」汝生は泣きながら頭を振った、「――わたくしたちはこうするよりしかたがなかった、そして、今は仕合せなのだということが、ちい兄さまにもわかっては頂けませんのね」

「明日いって返辞をしよう、彼に少しでも男の意地があったら、こんどは卑怯なまねはするなと云って呉れ」

汝生は泣きやんで、涙を拭きながら、じっと息をひそめた。肩がおち、仮面のように無表情な顔になった。ちから尽き、絶望して、なにを考えることもできないというようすだった。それが又三郎の眼につよく残った。