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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
六
又三郎は黙って頷いた。
六
役所の許可を得て、その翌々日に、又三郎は金沢を立った。
旅にはいい季節であるが、気がせくので、途中の風景も殆んど眼にとまらなかった。駕籠と馬を乗り継ぎにして、信濃路を伊那へ入り、天竜川に沿って(舟便も利用しながら)遠江へと下った。二俣という処で川と別れ、東海道の掛川へぬけたが、七日間ぶっとおしの旅でさすがに疲れたし、府中まではあと十里余りなので、掛川の宿で一日躯を休めた。
――ひと違いであって呉れ。
彼は祈るような気持でそう思った。また一方では、裏切られたという怒りが、しだいに強くなっていた。それは汝生に対する愛情の深さを証明するように強く、激しい怒りであった。
――もし本当に動木と二人でいるとしたら、そうだ、それが事実としたら。
生かしてはおけない、少なくとも喜兵衛だけは斬らずにはおけない。又三郎の気持はしだいにはっきりしてきた。ひと違いであって呉れ、という願いはまだ消えなかったけれども……。
府中へ着いたのは、十六日の午後二時ころであった。彼は両替町の越木屋という宿に泊った。そこは脇本陣だから、花を活けに来ることはまちがいあるまいと思ったが、念のために訊いてみると、今日がその日で、もうまわって来るじぶんだということであった。