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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
二
自分たち二人以外には、誰にも事実を知れないようにすること、などである。
「わかりました、ではいって来ます」
又三郎は元気な声で云った。立つまでは顔つきも明るかったが、廊下へ出ると急に眉をひそめ、苦痛を感ずるもののように、強く唇を噛んだ。
「待て、汝生」彼は呟いた、「――おれがゆくまで待て、死ぬんじゃないぞ」
二
馬を乗り続けて、小松へ着いたのは午ちかい時刻だった。柊屋という宿を訪ねると、汝生はもういなかった。
「皆さまがお立ちになって一刻ばかりすると、もう治ったから駕籠でゆけば追いつくだろうと仰しゃいまして、急にお立ちなされました」
宿の者はそう云った。供を付けようとしたが、駕籠でゆくのだからと断わって、独りで出ていったそうである。又三郎はすぐに駕籠屋へまわってみた、すると、寺井の宿まで送って、宿はずれでおろした。ということで、そのあとどうしたかはわからなかった。
昼食の時刻を過ぎたが、食欲もないし気もせくので、彼はそのまま寺井まで戻った。そこは手取川に近い小さな宿場であるが、付近に陶器を多く産するのと、川上の鶴来へゆく道の岐れる処で、小さいながら繁昌している土地だった。