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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
五
などと考えて、哀れさ不憫さがいっそう増すばかりであった。
「――あの波の荒い、冷たい色をした海へ、……どんな気持で身を沈めたことだろう」
彼は眼をつむって、「加賀の舞子」と呼ばれる浜辺を想った。すると、耳の奥にあの松風や波の音が聞えて、どうしようもなく涙がこぼれた。
五
兵庫は三十日ほどして全快し、十月の中旬から勤めに出はじめた。
――葛西の家に不運がまわって来たのではないか。
こういう疑惧はまだ去らなかったが、年の暮には母も床上げの祝いをするようになり、また正月の下旬には、あによめの文代が女の子を産んだ。母はまだ当分は医者の手からはなれられないそうであるが、一家を掩っていた二年越しの暗い影が、ともかくも晴れて、やわらかい春の風でも吹き込むかのような、温かい恵まれた気分に包まれた。
その年の十一月に、三浦でも又三郎の妻が男の子を産んだ。
葛西では母がすっかり健康になり、また兵庫は年が明けてまもなく納戸役から奥家老に挙げられて、五十石ばかり加増された。それまで無役だった又三郎も、秋になって定出仕を命ぜられ、表祐筆に席を与えられた。
こうして無事に月日が経った。