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かみなりもんいほく

雷門以北

久保田 万太郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页

青空文庫

――と、いま、ここにそう書きながら、夏の、ぎら/\と濃い、触ったらベットリ手につきそうに青い空の下、人あしの絶え、もの音のしずんだ日ざかりの、むなしく白じらと輝いた、でこぼこ石を並べたその細いみちをわたしは眼にうかべた。駄菓子屋のぐったりした日よけ、袋物屋の職人のうちの窓に出したぽつんとした稗蒔……遠く伝法院の木々の蝉が、あらしのように、水の響きのようにしずかに地にしみた。――その庵室のようなうちには、日本橋のほうの、小間物屋とかの隠居が一人寂しく余生を送っていた。

出羽作の隣は西川勝之輔という踊りの師匠で、外からのぞくと、目尻の下った、禿上った額の先代円右に似たその師匠が、色の黒い、角張った顔の細君に地を弾かせ、「女太夫」だの「山がえり」だの「おそめ」だのを、「そら一イ二ウ三イ……ぐるりとまわって……あんよを上げて……」と小さい子供たちにいつも熱心に稽古していた。――それに並んで地面もちの、吉田さんといううちの、門をもった静かな塀がそのあとずっと出外れまでつづいていた。――子供ごころに、いまに自分も、そうした構えのうちにいつかは住みたいとそこを通る毎しば/\そうわたしは空想した。