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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
に聞き惚れても、ブリキ細工の玩具屋のニッケルめっきの飛行機がいかにすさまじく店一ぱいを回転しても、そこには香の高いさくら湯のおもいでをさそうよろず漬物の店、死んだ妹のおもかげに立つ撥屋の店、もんじ焼の道具だの、せがんでたった一度飼ってもらった犬の首輪だのを買った金物屋の店……人形屋だの、珠数屋だの、唐辛子屋だの……そうしたむかしながらの店々がわたしのまえに、そのむかしながらの、深い淵のようなしずけさをみせてそれ/″\残っている。――が、それよりも……そうしたことよりもわたしは、仁王門のそばの「新煉瓦」のはずれの「成田山」の境内にいま読者を拉したいのである。
岩畳な古い門に下ったガラスばりの六角灯籠。――その下をくぐって一ト足そのなかへ入ったとき、誰しもそこを「仲見世」の一部とたやすくそう自分にいえるものはないだろう。黒い大きな屋根、おなじく黒い雨樋、その雨樋の落ちて来るのをうけた天水桶。――それに対して「成田山」だの「不動明王」だのとしたいろ/\の古い提灯……長かったりまるかったりするそれらの褪せた色のわびしいことよ。金あみを張った暗い内陣には蝋燭の火が夢のように瞬いている。