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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
仰ぐと、天井に、ほう/″\の講中から納めた大きな額小さな絵馬がともに年月の煤に真っ黒になっている。納め手拭に梅雨どきの風がうごかない……
眼をかえすと、狛犬だの、ごしょぐるまだの、百度石だの、灯籠だの、六地蔵だの、そうしたもののいろ/\並んだかげに、水行場のつづきの、白い障子をたてたうちの横に葡萄棚が傾いている。――そのうしろに、門のまえの塩なめ地蔵の屋根を越して、境内の銀杏のそういっても水々しい、したたるような、あざやかないろの若葉につつまれた仁王門のいただきが手にとるようにみえる――古いみくじの結びつけられたもくせいの下の鶏の一つ二つ餌をあさっているのも見逃し難い……
左手の玉垣の中に石の井戸がある。なかば土にうもれて、明和七年ときざまれたのがよめる……
金山三宝大荒神、――それに隣った墨色判断、――門の際につぐなんだ乞食……
わたしはただそういっただけにとどめよう。――お堂(観音さまのである)のまえの水屋の溢れるようにみち/\た水のうえにともる灯火のいまなおラムプであることを知っているほどのものでも、ときにこの「成田山」の存在をわすれるのをわたしはつねに残念におもっている。