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かみなりもんいほく
雷門以北
久保田 万太郎
「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,839 字 · 44 页
わたしをしてかぞえしめよ。「下総屋」と「舟和」とはすでにこれをいった。「すし清」である。「大黒屋」である。「三角」である。「野口バア」である。鰻屋の「つるや」である。支那料理の「来々軒」「五十番」である。ややこうじて「今半」である。「鳥鍋」である。「魚がし料理」である。「常盤」である。「中清」である。――それらはただ手がるに、安く、手っとり早く、そうして器用に見恰好よく、一人でもよけいに客を引く……出来るだけ短い時間に出来るだけ多くの客をむかえようとする店々である。それ以外の何ものも希望しない店々である。無駄と、手数と、落ちつきと、親しさと、信仰とをもたない店々である。――つまりそれが「新しい浅草」の精神である……
最後までふみとどまった「大盛館」の江川の玉乗、「清遊館」の浪花踊り、「野見」の撃剣……それらもついにすがたを消したあとはみたり聞いたりのうえでの「古い浅草」はどこにももう見出せなくなった。(公園のいまの活動写真街に立って十年まえ二十年まえの「電気館」だの「珍世界」だの「加藤鬼月」だの「松井源水」だの「猿茶屋」だのを決してもうわたしは思い出さないのである。