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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

しかるに、返事もこないうちに、周馬が中座しかけたから、お十夜が少しムッとした。

「まア落ちつけよ」

と、孫兵衛は、周馬の浮き腰を顎で抑えて、

「大事をもくろむ矢先に立って、気を散らすのは禁物だ。そんな量見方なら、この俺は俺で、勝手な道をとるとして、お前と組むのはお断りだから、そう思って貰いたい」

「お十夜、そう腹を立てては困る」

「だが、考えてみるがいい。なるほど、弦之丞はおれの恋仇、生かしておいては都合の悪いやつだ。しかし、お前のほうは、女のほかにあの屋敷の、すばらしい財宝まで、鷲づかみにしようとする、分の勝っている所がある。いわば、この仕事はそっちが七分で、おれが三分、その三分がとこで、丹石流の腕前を貸してやるようなものだ。少しは恩に思って貰いてえな」

「分っている、分っている……」周馬も、ここでお十夜に、グズられては困るので、またほどよく扱いながら、腰をすえて飲み始めた。

と。まっ白に塗った湯女が、銚子の代えを持ってきながら、

「旦那様」

「なんだ」

「使屋の半次が戻ってまいりました」

「たいそう早いな、連れてきてくれ」

湯女が出てゆくとすれ違いに、一人の男が入ってきた。