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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
「いやいや、万吉さえ救えてみれば、逃げた奴は取るに足らん」と、鴻山は一方を振りかえって「源内殿、容子はどうでござるな?」
「気がつきましたわい、もうご心配は要らぬ。これ万吉、万吉!」
「ああ……」呻きだした万吉、ムックリ起きて、きょとんとあたりを見廻していたが、鴻山と一八郎の姿を眸に映すと、飛びつくように摺り寄った。
「あ、ありがとうございました……ありがとう存じます。旦那方がこなけりゃこの万吉は、もう疾っくに椎の木の肥しになっているところでした」
ペタリと両手をついたさま、心から嬉しそうである。
「気分はどうじゃ、大儀ではないか」
「なアに大丈夫です、これしきのことにヘコたれちゃ、目明しという肩書に面目がありゃしません。そうだ! 何より先にお両方へお目にかけたい品があります」胴巻の奥から、おののく手につかみ出したのは、土筆屋の店でふと手に入れた例の手紙である。
「万吉の命は奪られても、こいつばかりはお渡し申したいと、この四、五日どんなにもがいたことか知れません。江戸表のお千絵という娘から、阿波へ入り込んだ甲賀世阿弥へ宛てた手紙、まあとにかく、中をごらんなすッて下さいまし」