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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「なに、甲賀世阿弥?」

名を聞いただけで、鴻山の面がサッと変る。一八郎もきっとなって繰りひろげられた手紙の側から、じっと息をひそめて黙読した。

宝暦変の前後、鴻山と一八郎が、公卿の背後に阿波あり、式部や山県大弐などの陰謀の黒幕に蜂須賀あり、と叫んでも、当時誰あって耳を藉す者もなかったが、ひとり、大府甲賀組の隠密に、同じ炯眼の士があって、単身阿波へ入り込んだという噂――またそれが、甲賀世阿弥ということも、ほのかに聞いていたので、二人は今なおその名が深く脳裏にあった。

「ウーム、不思議なものが手に入った!」読み行くうちに二人の表情、驚異となり、歓喜となり、怪訝となり、また感激に潤む眼となった。

「こりゃ、お千絵という婦人に会えば、なおも詳しいことがあろう。世阿弥その後の消息、彼の目的、また幕府の御意向もほぼ知れよう」

「鴻山様、拙者万吉を召し連れまして、すぐ江戸表へ下向いたしましょう」

「おお、其許と万吉が、甲賀家を訪れ、何かの実相を見てきてくれれば何よりじゃ。さすれば鴻山も、その間に甲比丹の三次や荷抜屋の手下どもをさとして、阿波へ渡る秘密船を仕立てさせ、万事の手筈を調えておくであろう」