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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

お才の名は、それからまもなく、桐佐のたそや行燈から隠れて、廓の馴染みな人を相手に、薗八節の女師匠と変った。そして、淋しいしもたやにお綱の育つのを楽しみにしていたが、紋日の虎につきまとわれて、何かやむない事情にしばられ、なさぬ仲のお三輪を生み、乙吉を生み、そして、さすがな色香も年ごとに褪せて、おはぐろ溝の長屋に散った――。

「名妓の末路はなぜああでしょう?」

仲之町では、そう噂した。

そうした古い記録のほかにも、まだ確かな証拠があった。

一緒に出てきた紅錦の守り札袋――それには、紺紙金泥の観音の像に添えて、世阿弥とお才とが仲の一女、お綱の干支生れ月までが、明らかに誌してあった。

もう、疑う余地もないが、残る脇差の方をしらべてみると、これは世阿弥がかたみとして、阿波入国の前にお才へ渡したものであろう、六角の象嵌鍔に藍よりの柄糸、めぬきは四代光乗が作らしく、観世水に若鮎が埋めこまれ、柳しぼりの鞘ごしらえ、なんともいえない品格がある。

「すばらしい。大名物といってもいいくらいな刀だ。お綱さん、ひとつ中身をあらためさしておくんなさい」

こういって万吉はなおも深く、装剣の美術に見とれた後、しずかに鞘を払ってみた。