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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

「無理なこと仰しゃらないで」

「どうして」と半三郎は云った、「食事をするくらいのことがなぜ無理なんだ」

「あなたとは此処で逢うだけよ」

「もうこんなに秋風が立ってきた」半三郎が云った、「泳ぐのももう僅かなあいだだ、泳げなくなっても逢いに来るか」

「そのときのことはそのときよ、そのつもりなら九月だって十月だって泳げるわ」

「いっしょに食事をしよう」と半三郎は云った、「おれは知らないから、場所はそっちで選んでくれ、できるだけ早くだ」

「どうしても、――」

「どうしてもだ」

そのとき二人は、爼板岩の上に並んで坐っていた。ただこは自分の(裸の)膝へ眼をおとし、小麦色に焦けた、なめらかな膝頭を撫でながら、思い余ったように太息をついた。

――この方はもうあとへはひかないだろう。

彼女はそう思った。半三郎の口ぶりは静かであるが、これまでとは違った調子があった。そうして、彼女自身のなかにはもっと強く、その要求を拒めない感情がそだっていた。

「もしかして」とただこは云った、「そのために、こうして逢うことができなくなるとしても、それでも――あなたは構わなくって」

「それはどういう意味だ」