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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

「大漁だという意味か」

彼女はあいまいに首を振った。眼を伏せたまま首を振るその動作は、いかにもよわよわしく、困惑しているようにみえた。だが、ただこはすぐに顔をあげ、彼を見て眼で笑いながら云った。

「だってあなたは、せっかく釣った魚を、いつも逃がしておしまいになるじゃありませんか」

「どう云おう」半三郎は笑おうとした、「困ったな、おれはこんなときうまくやり返すことができないんだ」

ただこは乾いた声で笑った。自分で云った言葉に自分で「不吉」を感じたらしい、乾いたような声で笑いながらいそいで云った。

「それで手のほうが先になるのね」

「手が届きさえすればね」

そのとき、池のほうで激しい水音がした。見るとすぐ向うの水面で、一羽の鵜が暴れていた。長い頸をふりながら、翼でばたばた水を叩いている。傷でも負って苦しんでいるようにみえたが、よく見ると大きな魚を咥えていた。その魚が大きすぎて嘴に余るのを、むりやりに呑み込もうとして、暴れているのであった。しかしもはや大きすぎたのだろう、魚はついに逃げてしまい、鵜は口惜しそうにそれを見送った。――それがいかにも口惜しそうで、「ちぇっ」