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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

彼は残りの中から一本を選み、すっかり手入れをして、でかけた。

「その」と段平が云った、「もしも柏原さまがおめえになったら、どんなあんべえに云ったらいいですか」

「釣りにいったと云え」

「その」段平が云った、「おらが考げえるに」

「釣りにいったと云え」

そして半三郎は出ていった。

淵へおりた彼は、爼板岩の上に釣竿が置いてあるので驚いた。四日まえに流した竿である、あのとき流した自分の竿だということはひと眼でわかった。半三郎は怯えたような眼つきで、慌てて周囲を見まわした。

そこはいつものとおりだった。どこにも人は見えなかったし、どこかに隠れているようすもなかった。

「幻でも眼がどうかしたのでもない」と半三郎は呟いた、「あれは事実だった、あの……女は本当にいたんだ」

あの裸の女は実在のものだった。それで彼の流した竿を拾って、此処へ置いたのに違いない、半三郎はそう思った。すると心臓が(あのときのように)どきどきと鳴りだし、顔が赤くなった。半三郎は自分をごまかすように、さりげなく釣りの支度をし、いつもの場所に腰をおろした。腰をおろすとすぐに、岩を叩いて云った。

「頼むぜ、きょうだい」