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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

の風説も、やっぱりその、五十年百年に一度の、社会的狂気の類であったかも知れないのだ。

ある年の春、まだ冬外套が手離せぬ、三月初めのことであったが、どこからともなく、金製の仮面をつけた怪人物の風評が起り、それが人から人へと伝わり、日一日と力強くなって、遂には各新聞の社会面を賑わす程の大評判になってしまった。

風評は非常にまちまちで、謂わば取りとめもない怪談に類したものであったが、併しその風評に含まれた、一種異様の妖怪味が、人々の好奇心を刺戟した。随って、この新時代の幽霊は、東京市民の間に、非常な人気を博したのである。

ある若い娘さんは、銀座のショウウインドウの前で、その男を見たと云った。真鍮の手すりにもたれて、一人の背の高い男が、ガラス窓の中を覗き込んでいたが、ソフト帽のひさしを鼻の頭まで下げ、オーヴァコートの襟を耳の上まで立てて、顔をすっかり包んでいる様子が、何となく変だったので、娘さんは窓の中の陳列品に気をとられている様な風をして、首を延ばして、不意にヒョイと男の顔を覗いてやったという。すると、帽子のひさしと、外套の襟との僅か一寸ばかりの隙間から、目を射る様にギラギラと光ったものがある。