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おうごんかめん
黄金仮面
江戸川 乱歩
作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页
ハッとして、青くなって、娘さんは男の側を離れてしまったが、男の顔は、古い鍍金仏みたいに、確かに確かに、無表情な黄金で出来ていたということだ。
胸をドキドキさせて、遠くの方から眺ていると、男は、正体を見顕された妖怪の様に、非常に慌てて、まるで風にさらわれでもした様に、向うの闇と群集の中にまぎれ込んでしまった。男の覗いていたのはある有名な古物商の陳列窓で、そこの中央には由ありげな邯鄲男の能面が鉄漿の口を半開にして、細い目で正面を睨んでいたという。この不気味な能面と、男の黄金仮面の無表情の相似について、様々な信じ難い噂さえ伝えられた。
ある中年の商人は、夜、東海道線の踏切を通って、無残な女の轢死体を見たが、まだ弥次馬が集まって来ない、たった一人の時、妙な洋服男が死体の側をウロウロしているのを見たという。その男もやっぱりソフト帽をまぶかにして、外套の襟を立てて、顔を隠す様にしていたが、商人は朧な月光でその顔が金色に光るのを確かに見た。
いやそればかりではない。無表情な黄金仮面の口から顎にかけて、一筋タラリと真赤な液体が流れ、その口が商人に向って、ニヤリと笑いかけたというのだ。