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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

「君、一寸待ち給え」

侯爵が怒鳴ると、男はクルッと振返って、ニヤニヤ笑いながら一礼した。肩まで垂れた長髪の上に、アイヌの酋長みたいな顔中髭だらけの、薄気味悪い人物だ。

「君は、一体誰です。今何をしていたのです」

侯爵の詰問に、相手の男が答える前に、突然横合から口を出したのは、執事の三好老人だ。

「木場さん。こんなことを仕出来して下すっては、私が困るじゃありませんか。もう一日もお泊めして置くことは出来ませんぞ。……イヤ、御前様、何とも申訳がございません。あの男は、実は、……」

「分った、分った。君の信仰している天理教の教師だね」侯爵は、怪人物の素姓が分ると、安堵して云った。「だが、再びこんな粗相のない様に、君からよく云って置く方がよい」

三好執事は天理教の狂信者で、門内の彼の住居には、時々説教旅行の教師が泊り込んで行く。木場さんというのもその一人で、見ず知らずではあったが、教会の確かな紹介状を持参したので、三好老人は安心して泊めて置いたのだ。どうして覗いたりしたのかと尋ねて見ると、新任のフランス大使閣下の御顔を一目見たかったのだと答えた。

さてそれからは別段の出来事もなく、大使一行の美術品巡覧は主客とも充分の満足を以て終った。