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こくびゃくストーリー

黒白ストーリー

杉山 萠円

「黒白」1925(大正14)年5月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,356 字 · 42 页

青空文庫

憲作は番頭の久四郎に名刺を出して叮嚀にお辞儀をした。

私は横浜の足立家の者ですが……

若様の御婚約の品を……

ダイヤの指環か何か……

憲作は言葉の中に徳市を指した。

番頭の久四郎はチラリと徳市の様子を見た。

徳市は大鏡の前に立って慣れた手附きでネクタイを締め直していた。

番頭久四郎は名刺を見た。

――足立商会会計主任 大島鹿太郎――

久四郎は揉み手をしながら品物を取りに行った。

徳市がネクタイを締直すと間もなく、鏡の奥に見える入口の硝子扉が開いて母親らしい貴婦人に連れられた令嬢が這入って来たのが見えた。その令嬢は和装で女優かと見える派手好みであった。徳市はふり返って恍惚となった。

憲作が徳市の前に来てヒョコリとお辞儀をした。

若様……

一寸品物を御覧遊ばして……

徳市は気の向かぬげに帳場の方へ連れて行かれた。

憲作はそこに拡げられたダイヤ入りの指環のケースをあれかこれかと撰って見せた。

徳市は上の空で唯うなずいてばかりいた。

令嬢が近附いて来て徳市の前に拡げられた指環のケースを見た。その中の一つを欲しそうにした。

憲作は最大のダイヤを撰り出して徳市にさし付けた。