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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁

青空文庫

八

人見又四郎も鬢の毛をそそけさせていた。江戸に着くまで、彼と介三郎のあいだにも、もう一言の論争もなかった。おたがいに、ただ憂いと憂いを見かわしているのみだった。

八

幸い、天候にも恵まれ、道中はつつがなかった。

江戸表に着いて、小石川のやしきに入ると、老公は、風邪ごこちやら、多少つかれ気味ともいわれて、四、五日は陽あたりのよい南の一棟に静養していた。

「ご隠居さまが渡らせられると、何となくこの上屋敷全体が華やぐような」

と、小石川の家臣たちは、お下婢や小者の端にいたるまで、忙しさをみな歓んでいるふうだった。

そういう空気を観ても、この邸内の平常には、何か明るくない陰が、立ちこめていることは、老公によく分るのであった。

日頃は開けない部屋も、老公が来ると、隈なく開いた。

障子にも、廊下にも、冬日はいっぱいに映しこみ、行き交う家臣たちも、寒そうでない。

「玄桐どの、玄桐どの」

侍医の井上玄桐は、たれか? ――とうしろを振りむいた。そしてやや曲り加減の腰を急に伸ばし、

「やあ、紋太夫どのか」

と、若い者みたいに、元気に笑顔を示した。

紋太夫は、歩み寄って、

「今朝がたは、どんなご容体でございますな。