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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁

青空文庫

二

「いかになりゆくやら。――要するに水戸も腐えた時代の外ではあり得ないというに尽きる。世は元禄――ここも元禄の世間のうちだ」

「悦之進。では、行って来る」

「帰りは、夜か」

「さあ、分らぬが」

「夜にかかったら、途中、油断を召さるな」

「ははは。それだけは、だいじょうぶ。……きれいに染まったなあ、漆の葉が」

呟きながら介三郎は、もう解けかける霜の道を、ひとり淋しげに出て行った。

二

どこかで脂の濃い魚を夕餉に焼いているとみえる。庭園の疎林や泉石は閑雅だが、立ち迷うけむりは、ひどく実生活を思わせる。

「女房。――女房」

卜幽軒の主は、その魚のけむりに閉口したものの如く、書斎の障子をひらいて、例の、棒の如き一身を、黙然と、暮るるにまかせて独座していたが、ふと、奥へ向って、なおこういった。

「鳴子が鳴っている。柴門の鳴子ががたがた鳴っている。たれか来たのだろう。開けてやれ」

「はい」

魚を焼いていたひとであろう。勝手口から出てゆくすがたが見える。荒涼、廃園にひとしいほど、あるじの又四郎が住み荒していたこの家も、どこか艶が出ていると思われたら、故あるかな、このひとがいた。

このひととは、いうまでもなく、かれが呼ぶところの女房である。