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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁
二十
井上玄桐は、さがしていた。
「ご家老。――ご家老ならあれにおられますよ」
毛氈の上から一人が指さした。見るとなるほど、彼方の廊下のかどに、陽溜りの鴨のように、庭へ向って、しゃがみ込んでいる者がある。
ひとりは鈴木安心という家中の士。並んでいるのが、家老の藤井紋太夫。
紋太夫は、食後なので、楊枝をつかいながら、何か頷いている。鈴木安心が耳のそばでいうのを、しきりに、頷いては、歯をせせっている。
玄桐は、うしろへ寄って、
「紋太夫どの。老公のお召しですぞ」
と、告げた。
紋太夫は、ふり向いて、
「は。どちらに?」
と、すぐ起った。
「はやご装束を直されて、鏡の間においで遊ばされる」
と、聞くと、紋太夫は、小走りに廊下を渡って、下段の間にいる人々のうしろをよけて鏡の間へ通り、そっと、屏風のうちを窺って両手をついた。
「……お召しでございましたか」
鬘桶に腰かけたまま、さながら舞台に在るかのように、じっと、胸を正していた光圀は、
「紋太夫か」
と、横を見た。
「はっ。……紋太夫にござりますが」
「寄れ」
「はい」
「もすこし寄れ」
「……はっ」
板敷のうえである。身ごなしのよい紋太夫は、居ずまいを崩すことなく、つつつつと辷り寄って、更に、ぴたと手をつかえ直した。