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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「……直義どの」

「はい」

「そなた、兄を思う余り、めったなことを、考えているのではありますまいね」

「悪いでしょうか。兄者人へ近づいては」

「鎌倉どのの御直命で、蟄居の門は、わが家の家来ならぬ新田殿の手の者が、かたく見張っているのですよ」

「わかっています。その新田殿へすがって、頭を下げるのが、おいやなのでございましょう。お案じなされますな、直義にも意地はありますから」

しかし彼は、母を北ノ丸へ見送ってからまもなく、道行山へ狩に行くといって出たまま、その日、屋形に姿を見せなかった。

従来も、あわよくばと、兄高氏の幽居へ近づきかけたことは再々だった。が、どうしてもそこの警固はくぐれなかった。

もちろん、家臣中にも血気は多い。直義とおなじ目企みを抱く者、腕にかけてもと、悲憤に逸る面々の危険なうずきも見えるので、

「いや待て。へたをすれば、若殿御幽閉の科を、二重にする惧れもある。また新田党にすれば、わが足利党が騒ぎ出るのを、罠に待つような、下心やも計りがたいぞ」

と、暴挙は厳に戒めあって来たのだった。

「……が、こよいこそは、いかにもして」

と、直義ひとりは、ついに思いとまれなかったものらしい。