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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

鷹の巣

鷹の巣

――一方。

さきに高野街道へ向って行った船木頼春と菊王は、意識のうえで、わざと小道の横へ隠れたり、急に足を早めたりなどして見せながら、折々チラと、遠い影を振向いては嘲っていた。

「はははは。巧く釣ったな」

「まこと、まんまと釣れました。さすが八荒坊も、すっかり、あなたを弁ノ殿と思い込み、眼もはなたず尾行て来るようです」

「こなたの手くだを手くだと知らず、はるか後ろで、隠現さまざま、諜者の秘術をつくしているからおもしろい」

「だいぶ山路も深くなりましたが。……どうです、もうここらで、ひと思いに」

「いや、まだ人里が近すぎよう。いま高向の部落を離れたばかりだ。それ彼方からまた、牛追いなどがやって来る」

小半日はつい歩いた。なんといっても、紀州高野と河内との往還である。いざと二人が眼くばせ交わすと、そのたび、何か往き来の人影が邪魔に映す。

「どこまで行ってもおなじでしょう。ほどなく、この先はもう紀見峠」

天見の雑木林では前後に人影も見なかった。

菊王は歩み歩み、一方の頼春をうながしていう。

「余りに遅くなっては、古市でお待ちうけある弁ノ殿の方も、気がかりでなりませぬ。