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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

散所市

稀れには、あの窮屈な皇居から人中へ出て、自然な呼吸をしてみたくなることだっておありであろう。――それを行幸のたびに、いちいち事ありげな眼で私沙汰をくなどは、いかがなものか。およそ今日の、そんな風儀こそ、六波羅の狭量がそそる放免(密偵)根性と申すもので、卑しむべきおせッかいであるまいか。

山伏ていの男が言った。

相手は、この辺の学僧らしい。

龍田の道ばた――つまり奈良河内街道である。

腰かけている路傍の石から、春の梢霞を越えて、法隆寺の塔が、頃あいな距離で眺められる。

しかし、それには興もなげな二人なのだ。一般に、時事の論議がさかんである。わけて知職人の多い南都は時風も烈しい。――今も、相手の弁を嘲って、

「いや、お説はお説だが」

と、一方の学僧も、駁し出すと、負けていない。

――なるほど、六波羅根性とは、よくいわれた。鎌倉手代の事ごとにコセついた威嚇や小心さは、何とも笑止なものがある。

しかし、五年前に、ご承知だろうが、“正中ノ変”といわれた程な、あんな不始末を世上へ曝した朝廷としても、以後お慎みは見えず、また、諸民へたいしての、安堵のお示しなどもいっこうにない。