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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――たまたま、それがついに、直義の一行動から、発火したものと観れば、事は小さくとも、なにか怖ろしいものを孕む夜空にも思われる。

さきに、鑁阿寺の堀橋の内へ逃げこんでいた直義も、城戸の変を知ると、いまは潜んでもいられなくなった。われをわすれて、屋形の方へ。

「おういっ、夜詰ども。――東の城戸に、喧嘩があるぞ。出合え、出合え」

そして、彼方の闇が、おうっと、谺をなすのを耳に、彼自身も太刀のこじりを刎ねあげて、もとの城戸口の方へ駈けもどっていた。

日頃は、よく、

「ご総領よりは思慮ふかいご舎弟」

と、いわれたり、

「おちついていらっしゃる。何事によれ、ご冷静な」

と見られている直義だった。

が、その直義とて、やはり土の子、一片の坂東骨であったには違いない。前後、夢中であったにしろ、いまの彼たるや、別人のようだった。

「あっ……」

宙を駈けて行った彼の影は、途中で物に躓いたかのごとく、勢いよく横へ泳いでいた。ふいに一人の武者がぶつかッて来たためだろう。まだ、城戸までは行きつかないうちにである。

すると、空を打ッた武者は、振り向きざま、横なぐりの太刀を彼の睫毛に見せた。