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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

直義は、はッと知って、

「新田の者か」

と驚いて言った。

いや、叫んだときは、とっさに抜合せていたのである。さしたる敵でなかったのは、彼にとって倖せといえよう、斬ッて捨てるに、時は措かなかった。そして一と跳びに、城戸まで来て、

「や、どうしたのか?」

ここかしこ、死者は地に見える。だがここでの乱闘は終っていた。城戸の常詰は十人ていどだし、新田方の者は三十人近かった。――当然、彼らの捜査と、それを阻める者とのたたかいは、すでに城戸内へ移っていたのだ。

「不覚っ」

自分がひきおこしたことである。直義は狂ッたような眼いろになった。

だが、新田の者の蹂躪も、そこらの森の浅瀬へちょっと踏み込んだまでにすぎない。彼らは、たちどころにまた、城戸内から散り散りになって逃げ出して来た。――足利屋形は空家ではないぞとばかり、総門の内から駈けつけて来た家中の群れに、一トたまりもなく追われたのだった。

「口ほどもない蝗輩め」

「新田蝗の逃げ足、見たぞ」

「くやしくば、返してみよ」

罵るかぎり罵ッて、それを町屋端れや、河原までも、追いまくして引き揚げた。

「これで少しは、日ごろの胸のつかえが下がったわい」