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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――美人とは人はいうまい。

けれど好きな顔だ。自分には。

あの糸切歯の辺の一本だけが、歯並びからやや外れて、少し笑うと、珠を噛んでいるようにそれが見える。その唇もとが好ましいのか。

つぶらな眼、あれもよい。

また、愛くるしいうちにも、聡明さがある。ただの人形美ではない。そして、どちらかといえば面長な。

「や。……?」

愕と、彼の眸がすわった。

ここまでを想い描いて、五月の陽の下を、うつろでいたとき、と或る街辻から、自分の方を、じっと見ていた女の眼に、どきっと、彼は一瞬の全部を奪われていたのだった。――もし守時と同列でなかったら、あやうく、

「藤夜叉」

と、声を発していたかもしれない。

いや、声はなくとも、それにひとしいほどな胸騒いは、眉の凝結におおいえない。

たしかに藤夜叉だ。幻覚ではない。あの眼には、忘れえない責めがある。恨みをこめて、自分を刺してくるものがある。

彼女は一人でないらしかった。

そこらの町屋の棚(店)で何か買い漁りしている仲間を待ってでもいるものか。田楽役者らしい派手粧いの男女が、ほかにも、大勢見えた。

――と思うまもない。彼の駒は、他の駒脚と同歩調でそこはすぐ過ぎかけていた。