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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「若殿のお子を育てておるとか。すりゃ本当か。藤どの、委細を話せ、さあ聞こう」

と、夏草の背丈にかくれて坐りあった。

彼は、藤夜叉の語り出ることに、およそは、疑いをもたなかった。――すでに、過ぐる年の、伊吹の一夜の出来事から――あの梅朧な物蔭のことまでも、彼はみな知っていた。高氏へは、知らない顔をしていたに過ぎない。

だから、驚きはしなかった。

大名の息子である。

一人や二人の落胤など、あとから廻って、どうにでも処置するのがお傅役の役目とも心得ていた。けれど彼は、しん底から、

「……弱った」

と、今は当惑顔だった。

折ふし、まずい。

赤橋登子との縁談はすすんでいる。

いや、その方には糊塗の手段もなくはない。だが気になるのは、佐々木道誉の名が出たことである。花夜叉一座の田楽役者は、いわば道誉の領内に住むお抱え役者も同様なのだ。

「道誉の耳へは、義父の花夜叉が告げたのか」

その点、特に質すと、

「いいえ」

とは言いつつも、

「なにせい、一座の仲間も大勢ですから、どう隠しても」

と、そこは藤夜叉も口を濁す風なのである。

そもそも、右馬介は、初対面の初めから、あの婆娑羅大名の若入道を、あらゆる面で、警戒していた。