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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「宿直の者」

「おう、これは」

「起たいでもよい。父上は、おやすみか」

「御意で」

「なにか、お案じの態には見えなんだか」

「べつに」

「お夜食も、お薬餌も、おかわりもなく上がられたな」

「はっ。日にまし、お眠りもふかく拝されます」

「そうか。もし、夜半のお眼ざめに、お訊ねだったら、高氏はとうに戻っていたと、お案じなさらぬよう申しておけよ」

彼は、簾へ向って、毎夜のとおりな礼をした後、自分の寝所へ入って枕についた。

――ようやく彼は、自分の居る所に自分を置き得たここちだった。そして、みだれた頭のうちも、ととのえていた。

まっ先に、不知哉丸のことが、胸を衝く。

しょせん人間は獣でない。

予期もしない戯れの結果にせよ、産みの腹がたれにせよ、彼のうちにも、いやおうのない若い父性が必然にわいていた。それは途方に暮れるほどな負担と重たい感慨だったが、しかし、すべての処置はいま、右馬介が負って行ってくれた――と思う。

「……右馬介、よく致してくれた。忘れはおかぬ」

ぽたと、枕に涙の音がした。

あくる朝。

「若殿。右馬介の部屋に、かような物がございましたが」

と、小侍の一人が差出した。