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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――が、偽装とはしていても、文談会のこの雰囲気は、誰も嫌いではないらしい。しいて探せば、腹痛といって先に帰った大判事章房ぐらいなものだろうか。

それと、もひとり、日野蔵人俊基だった。

いかに辺りの杯盤が崩れだしても、彼のみは、その志士的行儀をくずしていない。

「土岐。一つ酌こう」

と、土岐左近をつかまえて、ほかの痴言猥歌もよそに。

「この頃、近江の若入道はどうしておるな。ここ消息もないが」

「佐々木でおざるか」

「さればよ。御辺がひどく惚れこんで、以前、身の館へも連れてみえた道誉だが、どうもあの男、二た股者ではあるまいかの」

「いや、さような惧れは、ゆめ、おざらぬ。消息なきは、夏の初め頃より、鎌倉表におるためと思われまする」

「はははは」と、俊基は手の杯を、左近へ与えて「どうやら、土岐は少々、あの若入道に、まいられておるそうな」

「これは、心外な」

と、単純な彼は、すぐムキな顔になった。

「一朝のばあいには、近江の要衝を占むる佐々木の向背こそ大事との仰せに、拙者が心をくだいて、お親づきまでは計ろうたものの……そもそも、彼に秘事をお洩らしあったのは」

「いうな。それやこの俊基だったにちがいない。