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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
「はっ」
と、大炊御門冬信は、ふたたび内記所へ退がって、告文を書き改めて来た。
「――冬信、読め」
と、すぐの御諚。
公卿たちはみな、居ずまいを正した。聞きすますうち、或る者は、屈辱感にふるえ、或る者は、悲憤を面上にみなぎらした。
わけて、女性の廉子は、声をすらシュクと洩らして、くやしげに咽び哭いた。
一人の女性の嗚咽は、それの交じることによって、男だけの悲腸の座を、一そう深刻なものにする。
宮妃もあまたな中で、一人廉子のみが、こんな折さえ、お側に侍っているわけも、彼女のそうした共通の激情が、御心にかない、後醍醐のゆるすところとなっていたのであろう。
やがて、夜も更けて。
「さらば、関東への勅使には、宣房がよい。宣房、下れ」
と、お名ざしであった。
これには、誰の異存もない。
そこで、次の日、万里小路ノ大納言宣房は、七十ぢかい老躯をもって、関東下向の旅についた。
副使は、三条公明。
もちろん、勅使とあっては、鎌倉方でも、粗略にはできない。
幕府は、極楽寺坂まで、大勢の騎馬徒士を繰り出して迎えたが、執権高時は、
「折あしく、発病のため」
と称えて、勅使との対面は、これを避けた。