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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

およそ、鎌倉御家人の、みな一と癖二た癖もある中にあっては、彼の存在や精励ぶりなど、まことに凡々たるものだった。鳴かず飛ばず、一生涯でも碌々とそれにあまんじている人間のように見えた。

――今日もである。

彼は、眠たげな欠伸をかみころしていたような顔を、大小名の溜りの間から、廊の西陽のうちに現わして“供待ち”にいる郎党の名を呼んでいた。

溜りに詰めている大名たちの、強がり話や、時局談議などには、なんの興味もないらしく、いつも居眠りを催すので、その方が彼には人々への気がねだった。――で、いつもよりちと早い退出とは思ったが、

「十郎、十郎」

と、郎党の佐野十郎をよび、彼と共に、駒ツナギの方へ歩いて行った。

十郎は、残暑の蝿を追いやりながら、駒を寄せて。

「さきほど、扇ヶ谷様(上杉憲房)から、おことづてのお使いがございましたが」

「なんと」

「涼やかなお夜食でも上げて、語りたいこともある。御帰途を、立ち寄ってくれまいか」

「ほ……。ならば、そちだけは大蔵へ帰って、その由、父上に申しあげておいてくれい。わしの帰りを、お案じあってはならぬからの」

武者所の門を出ると、高氏は一人、ぶらんぶらんと、馬の気まかせに道を扇ヶ谷の方へ歩かせていた。