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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

魔の声じゃ。耳を洗うて、忘れたがよい」

「はい。けれど、拭えぬ怯えに、ゆうべも恐い夢をみました。……ねえ、お母あさま。もし戦にでもなったら、足利ノ庄も安くはありません。私は盲ですし、母一人子一人、誰も関ってなどくれますまい。いっそのこと、都へ出ようではございませぬか。都の隅で、お母あさまは静かに住み、覚一は琵琶の修業に励みましょう。覚一を連れて、都へ移ると、お覚悟つけて下さいませ」

ふとした、子のことばにも、真理があり、訓えられることもある。

……ほんに。

彼女も今にして頷かれた。

亡き良人の願いもあったし、じぶんたち母子の願いも、武門の蔭には寄るまいと念じている。

けれど、義兄の上杉憲房はじめ、義姉の清子につながる足利兄弟、その有縁など、家垣のすべては名だたる武族のみである。――足利ノ庄や鎌倉にいては、いやでも、その人たちの修羅の業と輪廻を共にするほかない。

都は広いと聞く。

かつての承久ノ乱や、寿永、治承の大戦のさいでも、都の北山、嵯峨野のおくには、平家のきずなや権門を遁れ出た無髪の女性たちには、修羅の外なる寸土の寂地がゆるされていたともいう。