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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
か。
「いや、底意は知れぬ」
――ふと、火花のような疑いが彼の暗い酒心をかすめた。
もしや、道誉はすでに、藤夜叉のからだを、自分の夜の室にも入れているのではないか。いつか藤夜叉も、道誉の欲情になやまされているらしい嘆きをふと洩らしたこともある。
――とすれば、道誉のお抱え芸人の藤夜叉に、身の守れようわけはない。もう、とうに主人の肉欲に飼われた一片の美肉とされているのだろう。そしてその奴隷主のムチの下には、何事も拒めず、どんな傀儡にも甘んじてなる女にされているのかもわからない。
「……ただ藤夜叉には、不知哉丸があるために、半ば、わしへも心をひかれつつ、道誉との仲は、打ち明けられずにいるのだろう。そうだ、それで解けたといえよう。――あの婆娑羅めが、わしを恋の敵手と見、恋に勝ったと誇って、独り凱歌しておるものに相違ない」
彼は、登子がそばにいたことも忘れていた。
世に“うつつなき人”といわれている高時よりも、彼の方が、登子の眼には、あやしまれた。登子は泣きたさを怺えていた。
高氏の手は、その間、無性に杯を忙しくしていた。飲めど飲めど、酔も味も知らない彼であるやに見える。