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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「なんの、過ぐる年にも、近江田楽の花夜叉一座を、鎌倉へ連れ下って来たではないか」

「あのせつは、藤夜叉も、病気しておりましたゆえ、上覧の日には、惜しくも洩れたのでございましょう。何はともあれ、御意にかない、この道誉までが、鼻高々に存ぜられます」

「ムム気に入った。道誉」

「はっ」

「もらっておくぞ」

「え。藤夜叉を」

「問うまでもあるまい。柳営召抱えの伎座の一人として、高時の許にとどめておこう」

「太守、その儀だけは、せっかくですが、御意まかせにもなりませぬ」

「なぜ」

と、するどい。

眉間の鱗が立つような顔に変る。

「はははは。ごきげんをそんじましたな」道誉は、あつかい馴れているらしい。かろく去なして、

「――藤夜叉の身は、道誉一存になるものでもございません」

「当人に訊けと申すか」

「当の藤夜叉とて、大いに迷い悩みましょう」

「では、たれに問えとか」

「今夜の主賓高氏に」

「高氏に?」

「されば、藤夜叉の身の抱え主はこの道誉。したが半分は、高氏の持ち物なりともいえまする。……のう、高氏どの」

――もうこのときは、高氏の全身に、かつて覚えのないほどな酒量が廻っていたのである。