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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

藤夜叉は、ついぞ、そのようなこと、道誉さまに申した覚えはございません」

「まあ、よいわさ。いったのいわぬの、争いなどは」

「……でも、わたくしは」

「太守」

高時をも味方にいれて、道誉はねばねばとその悪戯ごころを快楽するように。

「御覧ぜられませ。女は、この道誉にも義理を立て、また高氏へも、すまぬ心を抱いて、あわれ二者の持ち主を前に、風に悩む花かのような風情を見せておりましょうが。……なべて、美人の美の、真を露に見ようとなれば、悩ませてみるか、泣かせてみるか、呵責しなければ見えてまいりませぬ」

「美人は呵責せよとの談義か」

「いちばい、色には動きを加え、露も捨て難い風情を増しまする」

「待て待て。そちの色道談義は聞きあいておるぞ。それよりは、この藤夜叉の身、いったい誰の持ちものときまるのか」

「高氏にお訊き願います。道誉としては、御献上も異議ございませぬが、高氏がどう言いますやら」

まるで奴隷主の口吻である。のみならず、新婚の登子を前に、高氏の秘をあばいて、奇を好む君侯のさかなに供し、共に嘲おうとでもするのらしい。

すると、やにわに、そばの大杯をつかみ取って、高氏が、