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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

この上は、まだ華雲殿の内かもしれぬと、諸侯ノ間、侍者ノ間、石庭の曲廊までを探しあるいた。すると、小御所の控え廂に、ひとり寂然と坐っている女性があった。

灯影はない。半身は簾にかくれ、ただ、半身の横顔が、うッすらと、外の夜空に透いて見える。その線が、登子に似ていた。

「もしや……。そこにおいであるは、姉君ではございませぬか」

「オオ、御舎弟さまですか」

「直義です。近火はともあれ、余りな御帰館の遅さに、お迎えに来てみれば、果たして、なにか華雲殿の御宴に異事があった様子。兄上はいかがなされたでしょうか。兄はまだ御前からお退がりではないのですか」

「いいえ」

登子は、おちついた声だった。

「……殿はここにおられまする。直義さま、おすすみ遊ばしませ。さいぜんから、ようお寝みの御容子ですから」

「えっ? かかる場所で」

直義は坐っていた所から、膝歩きにツツツツと、簾の内へ進み入るなり、

「ど、どうしたのです、寝ているとは。……やあ、大の字なりの、この態はまた」

唖然として、ただ見入るばかりだった。のびのびと横たわっている大きな四肢には、登子の裲襠が掛けてある。――ふと、鼾声がやんだのは、少しは酔いがさめかけているのかもしれない。