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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

そして、いたたまれずに退がろうとする義貞の女へまで。

「これこれ、隠れることはない。すぐ酒宴にしよう。彼方へ席をかえよと、みなへ申せ」

あらためた宴の席では、いながら夕富士が望まれた。

何かと、亭主役の心入れを見せながら、道誉は、執りもち顔にいった。

「それがしは近江だが、御両所には領地隣りだ。事あらば、唇歯の仲となって扶け合わねば両立しえぬお立場にある。過去一切は水にながして、心からお親しゅうして行かれたいもの」

高氏とて義貞とて、それに異存のあろうはずはない。

「いや、仰せまでもなく」

互いに、杯をあげて、ほほ笑みを見せあった。

いわれてみれば、往年の確執も、問注所の対決で、解決した形ではあったが、相互の胸のうちまで、きれいに、うち溶けていたわけではない。

その後も、下野国における新田、足利間の小ゼリあいは、何かと、鎌倉表には聞えていた。

――だからそのことを、道誉が真に憂えてくれての扱いなら、この一会は、高氏義貞にとっては、願うてもない邂逅の機を作ってくれたものとして、彼の好意を、大いに多として謝さなければなるまい。

だが、道誉の真意がどこにあるかは、高氏には全くつかまれていなかった。