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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
けれど、そのときの内容、それ以後の正成と俊基との交渉などは、何も聞くところはない。
おそらくは、六波羅の眼にはばめられ、あれきり途絶えているのではなかろうか。
「……とすれば、これから河内へ入るのだし、途中、楠木殿との御対面なども、お胸の予定にあるのではないか」
菊王は、そんな察しも抱いてみたが、それにつけ、偽宮方の八荒坊が、何か、不吉な白昼の魔の影みたいに、思い返さずにいられなかった。
終日、生駒山を右に見つつ歩いた奈良街道は、やがて、河内平野の無数な川すじと、川に拠って営みしている部落部落の灯やら野の灯を、しずかな夕霞の下に見出だす。
さっきから人待ち顔に、安福寺の下に佇んでいた地侍風の男がある。――いま、眼のまえの街道へ見えた二人づれの影へ、なつかしげに、呼びかけて行ったと思うと、ふた言三言、すぐ木蔭の馬を曳き寄せていた。
「弁殿。――馬を用意してまいりました。どうぞ、ここよりは馬の背にて」
「オオ、頼春。わざわざ出迎えに来ていてくれたか」
「お報らせをいただいてより、太夫にも数日来、しきりと、お待ちうけにござりまする」
「息災かな、散所ノ太夫も」