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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

彼の帰心は矢のごときものがある。

だが、溯り舟は、いとど遅い。また、若公卿の弁舌も酒気に研がれて、止まることを知らなかった。

「――かつはまた執権北条の底ぬけな驕奢、賭け犬ごのみ、田楽狂い、日夜の遊興沙汰など、何一つ、民の困苦をかえりみはせぬ武家の幕府よ。……が、それにひきかえ、この都では、御即位あって以来の、みかどの御善政ぶりを、汝らは皆、眼にも見てきたことであろうが」

新帝後醍醐の徳を、彼は、頌い上げるように、ここで称える。

前年の飢饉には、供御の物も減ぜられ、吏を督して、米価や酒の値上りを正し、施粥小屋数十ヵ所を辻々に設けて、飢民を救わせ給うたとも説く。

また、天皇親政このかた、おちこちの新関は撤廃し、記録所を興して、寺社の訴訟も親しく聴かれ、御余暇といえ、学殖のお養い、禅の研鑽など、聖天子たるの御勉強には、大御心のたゆむお暇も仰げぬという。

――すると、大事なところで。

「お客人、山崎でお降りのお客人。船が着く、立たっしゃらぬか」

船頭の声に、又太郎は、われに返った。惜しくはあったが、かねてから主従は、ここで降りる予定であった。

ここは淀川の北岸、山崎ノ郷。