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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

それは堀河院のみ世の事。御神楽の夜の酒もりに、職事の公卿行綱が、袴を高くたくしあげ、細ズネを現して、庭燎をグルグル廻りながら、足拍子に合せて。「……よりよりに夜のふけて。さりさりに寒きに。ふりちゆう睾丸を、ありちゆう、あぶらむ」と、三たび舞い歌って大喝采をはくしたというあの故事を、田楽化したものだった。

――やがて。もう終りに近いか、次は藤夜叉の一人舞で、唄は繰返しこう聞えた。

さかづきと

鵜の食ふ魚と

くろかみは

法なきものぞ

いざ二人ねん

「…………」

高氏の眸の中で、強烈な一輪の花が、渦となり虹となって燃えた。そしてすぐその花へ、他の田楽役者が大勢踊りからんで――“このごろ都に流行るもの”という輪踊りになっていたが、なお彼の網膜には、藤夜叉の舞しか残っていなかった。

「……小殿。お迎えが」

鳰に袖をひかれて、はっと気づいた。見ると、土岐左近が後ろで立座をうながしていたし、彼方では、道誉が自分を待っている風だった。

たぶんもう夜なか過ぎか。

田楽狂言も終って、あれからべつの墨絵の広間で宴となり、やがて役者たちをも座に加えてばさらな残夜を飲み更かしたのも、ずいぶん長かった覚えがある。