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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
いかにせむ
たのむ陰とて
立ちよれば
なほ袖ぬらす
松の下露
すると、峠のあちこちを見まわしていた季房が、とつぜん、身を刎ね起して、
「あっ、何者かが麓の方からこれへまいりますぞ」
と、さけんだ。
「なに」
藤房につづいて、天皇もよろりとお起ちになった。
近くの綴喜郡松井村の郷士に、深栖三郎という者がある。
彼ら一村の一ト旗組も、地理に明るいところから、夜来、幕軍の落人狩りの犬となって、あちこち獲物を求め歩いていたが、いま神童子越えの字“岩間”の山中まで来ると、先を歩いていた仲間が、
「やっ、公卿ていの者がチラと彼方に見えたぞ」
と、大声で後ろの同勢へ告げたのだった。
「いたか」
とばかり、騎馬の数人はすぐ鹿追い構えに矢交えをそろえて、猛然と、天皇たちへ向って驀進して来た。――その矢ジリは、明らかに天皇のお眼にも映っていたはずである。
が、お逃げになるふうもなかった。いやその御気力もはやなく、荒くれどもの矢ジリを見ては、逃げまどう愚はさとられたことでもあろうか。
「…………」
しかし、無下に寄れば咬みつきもしそうな藤房、季房二人の恐ろしい顔が、天皇のみ楯をなして突ッ立っていた。