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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

夏隣り

と、こたえられた二首なども見えるが、果たして、いつ何処でというようなことまでは、明確ではない。

ただ、はっきりいえることは、その朝四月の初め、美保ノ関を離れた船上における父皇の万感のうちには、瓊子のおもかげも、ふとお胸には泛かんでいたにちがいあるまいということだけだ。

しかし、この父皇には、余りに、かえりみる恨事や、未来夢が、多すぎている。いたいけな一姫ぎみだけへ、そのおん涙は、瀝ぎきれない。

むしろ、かすみゆく出雲の岸や、大山の彼方を見て、

「きっと、帰るぞ」

と、ひそかな誓いを、その眼じりに、睨め捨てておられたのではあるまいか。

大船二十四艘、小舟共は、数も知らず、遥かに押し出すほどに、いま一霞、心細う、まことに二千里の外の心地もする……。〔増鏡〕

かくて、後醍醐は、絶海の孤島へ、追いやられた。

佐々木道誉以下、これを見とどけた一軍は、即日、元の道を、急ぎに急いで、都へ向って帰っていた。

夏隣り

都では、さきに幕府が立てた新帝(光厳帝)の御即位をいそぐと共に、年号も、この四月二十八日をもって、

正慶

と、改元していた。

改元は、朝野の一新と希望の下におこなわれるもの。