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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「ははは。それは」

と、かろく聞き、また、

「ハハハハ」

と笑いながし、一こう身に沁みて、兼好のこの難儀に同情の風はなかった。

のみならず、その返辞もまた、たぶんに揶揄的な口調であった。

「……道理で、今日はいつもの兼好に似ず、馬に乗り徒士をしたがえ、どうしたわけの外出かと思うたら、そんな仔細で曳ッぱられてゆく途中だったか。その程度なら、まあたいした科にも問われまい。これが宮方加担の露見とでもいうのだったら、まずまちがいなく首はないが」

彼がこう言っているまに、長崎の家来たちは、時信へ目礼したのみで、さっさと兼好の馬を先へ追い立ててしまったし、時信もまた背をむけかえて、待たせておいた自分の部下を呼んでいる。

兼好は淡い悔いを噛んだ。

彼にとっても、じぶんにとっても、おたがいは、路傍の人にすぎなかった。――それを頼みに縋ろうとしたなどは、こっちの戸惑いというもので、時信の知ったことではあるまい。

元々、世の外にいて、戦乱はもちろん世事一切にも関わらぬとしている者が、自分に生じた災難だけを、その世間の中で生きている者へむかって「助けてくれ」と、救いを乞うのも、虫のいい料簡だった。