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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

ひとたび中堂の大梵鐘が三塔十六谷を鳴り揺すれば、日ごろ訓練に怠りない三千の僧兵がいつでも雲のごとく武装して立つほどにまでなっている。

この準備は、昨今のことではない。――宮が、叡山第百十六世の天台座主として山入りされた三年前からの奨励だった。

それも山門大衆の訓練にとどまらず、宮御自身も武技の鍛錬に衆目をみはらせたものである。むかし鞍馬の僧正ヶ谷における牛若もかくやと思われるばかりだった。――ことし元弘元年の秋、二十四歳の御血気なのだ。

執行が帰ったあと。

宮は自室へこもって、しずかに疑問の一書を読んでおられた。――いや、宮には疑問ではない。囚われの僧忠円は、宮が梶井の梨本ノ門跡としておわした頃の侍僧である。べつな意味では近臣といってもいい。

書中には「――この便りは足利家の情による」とも認めてあった。そうだろう、と宮はうなずかれた。囚人の忠円に、足利家が手厚くしてくれているという消息も、何かでお耳に入っていた。

しかし今。

忠円が越後へ流されるに先立って密かに知らせてきた内容には容易ならぬものがある。

幕府の内では、すでに、現帝の遠島を考えているだけでなく、大塔ノ宮はこれを殺害し奉らねば、到底、北条氏の安穏はないと、密議一決しているというのであった。