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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「ああそうだったか……」

高氏はさっきからの不審が、やっと、自分の失念にあったかと気がついた。

去年、出陣のさい。――高氏はかねて亡き俊基から死の前夜に「……いつの日か妻に手渡して給われ」と頼まれていた彼が幽居で手写した法華経一部と、和歌の詠草一帖とを、忘れずに持って西上したのであった。

だが。

あのさいは笠置、赤坂の戦いを先にひかえ、洛中それどころな騒ぎでなかった。

ただ、依然、洛外に潜んでいた具足師柳斎の右馬介が、さっそく陣所へやって来た。そして――佐渡ヶ島から資朝卿の一子阿新丸をたすけて、共に島を脱出して帰った報告などあったので――「それよ……」と思い出し、小右京への言伝ても、そのせつ右馬介に命じておいた。

だから、その後たしかに言伝てだけは、右馬介から小右京へ届いていたにちがいない。――しかし俊基が形見の品はいまなお高氏の手もとにあった。――自身の父の位牌とひとつ厨子のうちに納めたままでここに在る。

「おう、小右京どのとは、あなただったか。では去年、身の家人右馬介から、委細をお聞きおよびだったのか」

「はい。いずれ次の都入りのとき、親しくお会い給わって、高氏さまから、俊基朝臣の最期のさまもお話しがあるであろう。